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東京高等裁判所 昭和56年(ネ)730号 判決

控訴人(原告) 福島久直

被控訴人(被告) 長野県

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の申立

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  控訴人が被控訴人の設置する長野県農事試験場の職員たる地位を有することを確認する。

3  被控訴人は、控訴人に対し、金三〇〇万円及びこれに対する昭和五一年六月一八日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

4  訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人の負担とする。

5  3につき仮執行の宣言。

二  被控訴人

主文第一項と同旨

第二当事者の主張

次のとおり付加するほか、原判決の事実摘示と同一であるから、これを引用する。

一  控訴人

1  控訴人は、従来、控訴人が被控訴人の設置する長野県農業試験場の職員たる地位を有することの確認を求めてきたが、被控訴人の行政機構改革により、昭和五五年四月一日から、長野県農業試験場は、長野県農事試験場と名称が変更された。よつて、この点の控訴の趣旨を前記申立のとおり訂正する。

2  控訴人は、恒久的な正規の職員である農林技師と全く同一の業務に全く同一の勤務状態で従事してきたものであるところ、被控訴人は、地公法二二条一項、二五条三項等は一般の非常勤職員の任用を前提とする規定であり、控訴人の採用は、「一般職の非常勤の職員に関する規程」(以下「取扱規程」という。)に基づいて農事試験場長の専決処理によつて行われたと主張する。しかしながら、非常勤職員であつても一般職の職員である限り、原則として恒久的職員であつて、臨時職員と異なりその採用は競争試験又は選考による能力の実証が行われなければならず、反面身分保障も行われるのであり、非常勤職員の採用は直ちに正式採用となるべきものである。しかるに、被控訴人の右取扱規程は、一般職に属する非常勤職員について地公法二七条中の分限に関する規定及び二八条の規定の適用を排除しており(同規程二九条一項、三四条二項)、明らかに地公法に違反し、また、同規程中昭和五〇年三月二九日に改正後の、純非常勤職員について任用期限を一年に制限する規定(三二条二項)も同法に違反するものであり、かような法律違反の規程を根拠として控訴人の法的地位を定めることは許されず、むしろ控訴人らのいわゆる常勤的非常勤職員の勤務の実態を直視するならば、それは地公法の予定しない職員といわざるをえない。

しかしながら、かように法の予定しない任用方法による職員であつても、何時でも一方的に雇い止めの通告をしてよいということにはならないのであつて、その勤務の実態からすれば、かえつて同法一七条所定の正規の職員として取り扱うのが相当である。

3  なお、特段の事由があれば、一般職の非常勤職員について期限付任用をすることが許されるべきであるとしても、非常勤職員は特別な資格を要する職務や管理職的な職務を除いては一般に代替性があるのであるから、職務に代替性があることをもつて、期限付任用を許す特段の事由とすることは許されないというべきである。

二  被控訴人

1  長野県農業試験場が機構改革により長野県農事試験場と名称が変更されたことを認め、控訴の趣旨の変更に異議がない。

2  (一) 職員の任用を無期限のものとすることが地公法の建前ではあるが、さればといつて期限付任用を禁止する規定はなく、しかも、同法二二条一項、二五条三項等は期限付任用を予定していると解することもできるから、職員の身分保障と地方公共団体の行政の民主的、かつ、能率的な運営の保障を旨とする同法の建前を崩さない限りにおいては期限付任用も許されるのであり、被控訴人においては、「一般職の職員の給与に関する条例」(乙第一六号証の一)三条、「職員の勤務時間及び休暇等に関する条例」(乙第一六号証の二)九条が期限付任用の非常勤職員について規定し、更に、取扱規程を定め、その三二条において、控訴人のような日々雇用の、純非常勤職員の身分取扱について規定しているのである。

(二) そして、具体的にいかなる場合に非常勤職員としての採用が許されるかは、当該職員の職務の性質、内容、任期を定める必要性等に照らして、地方公務員法の目的、趣旨に反しないか否かによつて判断すべきであり、恒常的でない職務とか専務的でない臨時的業務に限定されるべき理由はない。

本件についてこれをみると、控訴人を採用するについては、控訴人の従事すべき仕事の内容が肉体的労務を主体とする農作業や試験研究の補助作業であつたこと、作業の遂行にあたり格別の専門的知識や習熟ないし過去の経験の豊富さを必要とせず代替性のある作業であつたこと、正規職員である農林技師とは責任分野が分かれており、農林技師や研究員の指示に基づいて作業が行われていたこと、控訴人自身も自分が正規職員として採用されたものでないことを重々承知していたこと、採用当時、控訴人は五四歳でほぼ退職勧奨年令に達しており、正規職員として採用する余地は皆無であつたこと、被控訴人としては、本来、控訴人を農繁期及び試験成績を期限までに提出しなければならない繁忙期に限つて就業させれば足り、恒常的に就業させる必要はなかつたのであるが、人手不足の時代で、農繁期等必要な時期に限つて就業を求めることが実際上困難であつたため、通年的雇用を継続していたものであること等の諸事情が存するのであり、これらの事情から控訴人を純非常勤職員として雇用する必要があつたのであるから、控訴人を非常勤職員として採用した被控訴人の行為は適法である。

3  控訴人は、純非常勤職員として採用されたのであり、また、期限付任用が反復継続されることがあつても、地方公務員の任用は地公法の規定に基づく公法関係であり法令による要式行為であるから、期限付任用が期限の定めのない任用に転換することはありえない。

控訴人の主張はいずれにしても理由がない。

第三証拠関係〈省略〉

理由

当裁判所も、控訴人の請求は理由がなく排斥されるべきものと判断するものであつて、その理由は、次のとおり付加、訂正するほか、原判決の理由説示(原判決九枚目裏六行目冒頭から一八枚目裏五行目末尾まで)と同一であるから、ここにこれを引用する。

一  1 原判決一〇枚目表五行目の「第一一」を「第一〇」と、「乙第三号証」とあるのを「乙第一ないし第三号証」と改め、同七行目の「同真島芳定」に続けて、「、当審証人御子柴穆、同高橋正輝(但し、後記措信しない部分を除く。)」を加える。

2 同一〇枚目裏一行目の「土壊」を「土壌」と、同七行目の「季筋的に増減することから」を「季節的に増減するため、同部では」と改め、同一〇行目の「これを補助するために」から一一行目の「稼働させていた」までを、「これを補助するため「職員の任用に関する規則」(昭和三四年人事委員会規則第三号、乙第一号証)附則第二項、取扱規程(乙第三号証)三二条に基づき日々雇用される非常勤職員が採用されて右作業に従事していた。」と、同一一枚目表一行目の「非常勤職員を採用して稼働させ」を「非常勤職員が採用されて稼働し」と、同二行目の「農芸化学部では、」を「同部における」と改め、同三行目の「一応は」を削除し、同六行目の「実際には、」から九行目の「かくして」までを「男子職員は、春、秋の二季に農場の作業に従事するほか冬期には実験室における分析調査の補助作業にも従事していたところから、」と改め、同九行目の「継続されることになり」を「継続されることになつたため」と改め、同行の「非常勤職員」から一一行目の「者の内にも」までを削除し、同枚目裏末行の「内定した」を「内定し、程なく試験場長の承認を得た」と、同一二枚目表八行目の「つたことから」を「り、例外的に在職者の退職年齢を六〇歳まで延長するとの優遇措置もとられていたため、実際問題として」と改める。

3 同一二枚目裏一行目の「理解」を「承知」と改め、二行目冒頭に、「例えば、」を加え、同一三枚目表二行目の「旨の人事通知書」から三行目の「至つたが」までを、「同五〇年四月一日付で「報酬日額二、〇〇〇円を給する。任用予定期限昭和五〇年四月一日から同年九月三〇日まで(その他の記載は上記四九年九月一七日付に同じ。)」との控訴人に対する雇用関係を明確にした人事通知書が試験場長名でそれぞれ交付されたが」と、同一三枚目表一行目の「実験室の」を「実験室における」と改める。

4 同一四枚目表一行目の「原告本人」に続けて「及び当審証人高橋正輝」を加え、同三行目の「日々雇用される非常勤職員」を「前記取扱規程に定める非常勤職員のうち、第五章所定の純非常勤職員」と改める。

5 同一六枚目表五行目の「長野県条例第六号」に続けて「、乙第一六号証の一」を、同末行の「条例九号」に続けて「、乙第一六号証の二」を、同一八枚目末行の「条例六七号」に続けて「、乙第一六号証の三」を加える。

二  控訴人は、被控訴人の取扱規程は、非常勤職員について地公法の分限に関する規定の適用を排除しており、また、昭和五〇年の改正規定において純非常勤職員の任用期限を制限する規定を設けているのは、いずれも地公法に違反するものであると主張する。

まず前者について検討するに、地公法二九条の二第一項が非常勤職員について同法二七条のうち分限に関する規定及び二八条の規定の適用を除外していないにもかかわらず、取扱規程(乙第三号証)によれば、被控訴人は、季節的任用の常勤的非常勤職員と純非常勤職員についてこれらの規定の適用を除外していることが認められ、また、期限付任用の職員についても地公法の右各規定の適用が除外されるものでないことは、同法二九条の二の規定に照らして明らかである。しかしながら、非常勤職員といつてもその職種、職務内容は一律でなく、また、期限付任用の職員についてもその事情を異にするものでないところ、本件で問題になつているような、日々雇用の純非常勤職員の任用が反復された結果雇用期間が長期化するに至つた場合でも、その任用が地公法一七条による正式任用によるものではなく、その職務に関する能力も、さきに認定した控訴人の採用の経緯にみられるように、十分の実証を経たものではないこと等にかんがみるときは、これを一般の非常勤職員や期限付任用の職員と同列に取り扱うのは相当でなく、同法二九条の二の適用上は同条一項二号の臨時的任用の職員に含めて考えるのが相当であると解される。したがつて、純非常勤職員について同法二七条のうち分限に関する規定及び二八条の規定の適用を排除した取扱規程三四条二項、二九条の規定は地公法に違反するものではないというべく、右違法を前提とする控訴人の主張は理由がない。また、後者については、期限付任用の職員の存在が認められる以上、その任期につき任用予定期限を予め規定しておくのはむしろ当然であり、昭和五〇年三月二九日人第四七七号による改正後の取扱規程三二条二項に定める「一年をこえない任用予定期限」は不合理とはいえないから、右予定期限を定めたことの違法を前提とする控訴人の主張も理由がない。

三  当裁判所は、控訴人は任期を一日とする取扱規程所定の純非常勤職員に任用されたと判断するものであり、その経緯に関する認定は訂正、引用にかかる原判決第二項の判示と同一である。右によつて明らかなように、控訴人の職務内容に代替性のあることを右認定の事情の一つとするものではあるが、右代替性があることの一事によつて控訴人が前記の非常勤職員に任用されたと認定するものではないから、控訴人の主張3も理由がない。

以上の次第で、控訴人の請求はいずれも理由がなく、これと同旨の原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却すべく、訴訟費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 鈴木潔 吉井直昭 岡山宏)

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